「善意のつもりが実はハラスメントだった…」そんな経験はありませんか?
現代の職場では、リモートワークの普及や働き方の多様化により、従来とは異なるコミュニケーションの場面が増えています。
パーソル総合研究所の調査によると、2024年7月のテレワーク実施率は22.6%となっており、多くの職場でオンラインでのやり取りが日常的になっています。
しかし、こうした新しい働き方の中で、意図しないハラスメントが生まれるリスクも高まっています。
厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、「事業主は、テレワークの際にも、オフィスに出勤する働き方の場合と同様に、関係法令・関係指針に基づき、ハラスメントを行ってはならない旨を労働者に周知啓発する等、ハラスメントの防止対策を十分に講じる必要がある」と明記されています。
本記事では、日常のビジネスシーンで起こりがちな「グレーゾーン」の行為について、具体的な場面別に解説します。
善意や配慮のつもりでも、相手にとってはハラスメントと感じられる可能性がある行為を知ることで、より良いコミュニケーション環境を築いていきましょう。
リモートワークで起こりがちなグレーゾーン行為

1. 画面に映る環境への言及
よくある場面
- 「お部屋きれいに片付いてますね」
- 「その後ろの本棚、何の本が並んでるんですか?」
- 「素敵なカーテンですね、どちらで購入されたんですか?」
なぜ問題になる可能性があるのか
プライベート空間への過度な関心は、相手にとって「監視されている」「プライバシーが侵害されている」と感じられる可能性があります。
特に自宅の経済状況や生活様式が推測されるような発言は、相手を不快にさせるリスクがあります。
適切な対応
業務に直接関係のない個人的な環境については触れず、もし何か見えても特に言及しない配慮が必要です。
どうしても話題にしたい場合は、相手から自発的に話された場合のみ、簡潔に応答する程度に留めましょう。
2. 家族・同居人の存在への反応
よくある場面
- 「お子さんの声が聞こえますね、何歳ですか?」
- 「ご家族がいらっしゃるんですね、紹介してください」
- 「奥様(ご主人)も在宅でお仕事されてるんですか?」
なぜ問題になる可能性があるのか
家族構成や家庭事情について詮索することは、プライバシーの侵害にあたります。
また、家族がいることで仕事に支障が出ていると思われる不安を相手に与える可能性もあります。
適切な対応
家族の存在が分かっても、業務に支障がない限り特に言及せず、もし音が気になる場合は「音声の調整をお願いします」程度の業務的な指摘に留めます。
3. 技術的なトラブルへの対応
よくある場面
- 「また音声が途切れてますね、ちゃんと設定してください」
- 「そのパソコン古いですね、新しいのに替えた方がいいんじゃないですか」
- 「通信環境悪いですね、もっと良いプロバイダーに変更してください」
なぜ問題になる可能性があるのか
技術的な能力や経済状況を想定した発言は、相手の尊厳を傷つける可能性があります。
特に個人の経済負担に関わる改善提案は、プレッシャーを与えることになります。
適切な対応
技術的な問題については、「音声が聞こえにくいようですが、確認いただけますか?」など、問題解決に焦点を当てた客観的な伝え方を心がけます。
会社側でサポートできる範囲について事前に明確にしておくことも重要です。
4. 時間外連絡の常態化
よくある場面
- 夜21時にSlackで「明日の件、確認しておいてください」
- 休日の朝にメールで「月曜の準備をお願いします」
- 「リモートだから時間関係ないですよね」
なぜ問題になる可能性があるのか
リモートワークでは仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちです。
時間外の連絡が常態化すると、従業員は常に仕事モードでいることを強要されていると感じる可能性があります。
適切な対応
緊急時以外は業務時間内の連絡を基本とし、どうしても時間外に送信する場合は「返信は業務時間内で結構です」などの一言を添えることが重要です。
会議で気をつけたいグレーゾーン行為

5. 発言機会の無意識な制限
よくある場面
- 「若手の○○さんは、まだ経験が浅いから今回は聞いているだけで大丈夫」
- 「女性陣は感情的になりやすいから、数字の話は男性陣で」
- 「外国人の△△さんは日本の商習慣が分からないと思うので」
なぜ問題になる可能性があるのか
年齢、性別、国籍などの属性を理由に発言機会を制限することは、その人の能力や意見を軽視していることになります。
これは明確な差別的行為であり、ハラスメントに該当する可能性が高いです。
適切な対応
すべての参加者に等しく発言の機会を提供し、属性に基づく決めつけは避けます。
「○○さんのご意見はいかがですか?」など、個人として尊重した声かけを心がけましょう。
6. 参加方法への配慮不足
よくある場面
- 「カメラはオンでお願いします。顔が見えないと困ります」
- 「背景をオフにしてください。気が散ります」
- 「もう少し良い場所から参加してもらえませんか?」
なぜ問題になる可能性があるのか
参加者の環境や事情を考慮せずに一律の要求をすることは、プレッシャーを与える可能性があります。
特に家庭環境や技術的制約がある場合、過度な要求は参加自体を困難にするかもしれません。
適切な対応
カメラオンは必須ではないこと、背景設定は個人の判断に委ねることを基本とし、業務上必要な場合のみ理由を説明して協力を求めます。
7. 発言内容への過度な指摘
よくある場面
- 「それは間違いです。勉強してから発言してください」
- 「そんな基本的なことも知らないんですか?」
- 「前回も同じような間違いをしていましたよね」
なぜ問題になる可能性があるのか
公開の場での人格否定や能力に関する侮辱的な発言は、明確なパワーハラスメントに該当します。建設的な議論の機会を奪い、発言者の自尊心を傷つけます。
適切な対応
「別の視点として、こういう考え方もあります」「補足させていただくと」など、相手の尊厳を保ちながら情報を共有する表現を使います。
評価面談での注意ポイント

8. プライベートな事情への過度な関心
よくある場面
- 「最近パフォーマンスが下がっているようですが、家庭で何かありましたか?」
- 「結婚の予定はありますか?キャリアプランに影響しますか?」
- 「お子さんが小さいから、出張は難しいですよね?」
なぜ問題になる可能性があるのか
業務評価とは関係のない個人的な事情への詮索は、プライバシーの侵害となります。
特に結婚、出産、育児などに関する質問は、性別による差別的取り扱いに繋がる可能性があります。
適切な対応
業務パフォーマンスについては客観的な指標に基づいて評価し、改善点がある場合は具体的な業務スキルや手法に焦点を当てて話し合います。
9. 将来への決めつけ発言
よくある場面
- 「年齢的に、新しい技術を覚えるのは大変でしょう」
- 「女性だから管理職は負担が大きいかもしれませんね」
- 「若いから体力勝負の部署が向いていると思います」
なぜ問題になる可能性があるのか
年齢や性別を理由とした能力の決めつけや配置の示唆は、差別的な発言に該当します。
個人の可能性を制限し、キャリア形成に悪影響を与える可能性があります。
適切な対応
個人の希望、実績、スキルに基づいて評価し、属性による決めつけは避けます。
「どのような分野でスキルを伸ばしたいですか?」など、本人の意向を尊重した質問を心がけます。
10. 同僚との比較による評価
よくある場面
- 「同期の○○さんと比べて、積極性が足りません」
- 「△△部の□□さんはもっと結果を出していますよ」
- 「あなたより若い××さんの方が習得が早いです」
なぜ問題になる可能性があるのか
他者との直接的な比較による評価は、評価される側の自尊心を傷つけ、職場内の人間関係にも悪影響を与える可能性があります。
適切な対応
個人の前回からの成長や目標達成度に焦点を当て、他者との比較ではなく個別の改善点を具体的に指摘します。
日常のコミュニケーションで見落としがちなポイント

11. 「配慮のつもり」の決めつけ
よくある場面
- 「時短勤務だから、重要な会議は入れないでおきますね」
- 「体調を考慮して、出張のない部署に異動してもらいます」
- 「年齢を考えて、負担の少ない業務にしますね」
なぜ問題になる可能性があるのか
本人の意向を確認せずに「配慮」することは、かえって機会の剥奪や差別的取り扱いになる可能性があります。
善意であっても、結果的にキャリアに悪影響を与えることがあります。
適切な対応
配慮が必要と思われる場合でも、必ず本人の希望を確認し、選択権を相手に委ねることが重要です。
12. 世代間ギャップを理由とした区別
よくある場面
- 「Z世代だから、SNSの担当をお願いします」
- 「ベテランの方には、アナログな作業をお任せします」
- 「デジタルネイティブなので、IT関連はすべて任せます」
なぜ問題になる可能性があるのか
世代というだけで能力や適性を決めつけることは、個人の多様性を無視した判断です。
ステレオタイプに基づく業務分担は、個人の成長機会を制限する可能性があります。
適切な対応
個人のスキル、経験、希望に基づいて業務を分担し、世代による決めつけは避けます。
13. 外見・身だしなみへの言及
よくある場面
- 「今日は疲れて見えますね、大丈夫ですか?」
- 「髪型変えましたね、似合ってます」
- 「その服、プライベート用じゃないですか?」
なぜ問題になる可能性があるのか
外見に関する言及は、たとえ褒めるつもりでも相手を不快にさせる可能性があります。
特に性的な意味合いを含む可能性がある発言は、セクシャルハラスメントに該当するリスクがあります。
適切な対応
業務に直接関係のない外見については基本的に言及を避け、健康面での心配がある場合は「体調はいかがですか?」など、相手の状態を気遣う表現にとどめます。
グレーゾーンを避けるための実践的な対策

組織として取り組むべき対策
1. 明確なガイドラインの策定
リモートワーク、会議、評価面談それぞれの場面で注意すべき点を具体的に示したガイドラインを作成し、全社員に周知します。
2. 定期的な研修の実施
年1回以上のハラスメント防止研修を実施し、新しい働き方に対応した内容を含めることが重要です。
3. 相談窓口の充実
社内外の相談窓口を設置し、匿名での相談も可能にすることで、早期の問題発見と解決を図ります。
4. 管理職への特別教育
部下とのコミュニケーションを取る機会の多い管理職に対して、より詳細な教育を実施します。
個人として心がけるべきポイント
1. 相手の立場に立つ想像力
自分の発言や行動が相手にどう受け取られるかを常に考える習慣をつけます。
2. 業務関連性の意識
発言や質問が業務に必要かどうかを判断基準とし、個人的な関心は控えます。
3. 相手の選択権の尊重
配慮や提案をする際は、必ず相手の意向を確認し、選択権を委ねます。
4. 継続的な学習
ハラスメントに関する知識を定期的にアップデートし、新しい働き方に対応した理解を深めます。
誰もが働きやすい職場環境の実現に向けて

現代の職場では、従来の対面でのコミュニケーションに加え、リモートワークやオンライン会議など、新しい形のやり取りが増えています。このような環境の変化に伴い、意図しないハラスメントが生まれるリスクも高まっているのが現実です。
厚生労働省の調査でも、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」と回答する企業が59.6%に上ることからも、多くの職場でグレーゾーンの判断に苦慮していることが分かります。
重要なのは、「悪意がなければ問題ない」という考え方から脱却し、「相手がどう受け取るか」という視点を持つことです。善意や配慮のつもりでも、相手の立場や状況を十分に考慮しない言動は、結果的にハラスメントとなる可能性があります。
組織全体でハラスメント防止に取り組み、個人一人ひとりが相手を尊重するコミュニケーションを心がけることで、誰もが安心して能力を発揮できる職場環境を実現することができます。
日常の何気ないやり取りの中にも、相手への配慮と敬意を込めることが、より良い職場づくりの第一歩となるでしょう。
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