ビジネスにおいて、部下や同僚に対して適切なフィードバックを行うことは、チーム全体のパフォーマンス向上や人材育成において極めて重要です。
しかし、多くのマネージャーが「どのようにフィードバックを伝えれば相手に受け入れられるか」「感情的にならずに建設的な対話ができるか」といった課題を抱えています。
そこで注目されているのが「SBIモデル」です。このフレームワークは、世界的なリーダーシップ開発の権威機関であるCCL(Center for Creative Leadership)が40年以上にわたる研究データに基づいて開発したもので、現在では多くの企業で導入され、効果的なフィードバックの標準的な手法として認知されています。
SBIモデルとは

SBIモデルは、Situation(状況)、Behavior(行動)、Impact(影響)の3つの要素を順序立てて伝えるフィードバック手法です。
この構造化されたアプローチにより、フィードバックを行う側の不安を軽減し、受け取る側の防御的・否定的な態度を和らげることが科学的に証明されています。
Situation(状況):具体的な場面の設定
まず最初に、フィードバックの対象となる行動が起こった状況を明確に説明します。ここで重要なのは、「先週」や「この前」といった曖昧な表現ではなく、日付・時間・場所・機会などを具体的に示すことです。
例えば、「昨日の午後2時からの営業会議で」「3月15日のクライアント向けプレゼンテーションにおいて」といった具合に、相手がすぐにその場面を思い出せるよう詳細に設定します。
この明確な状況設定により、フィードバックを受ける側は「どの場面について話されているのか」を正確に理解でき、混乱を避けることができます。
Behavior(行動):観察された事実の説明
次に、その状況で対象者が実際に取った行動や発言を客観的に説明します。ここで最も重要なポイントは、主観的な判断や解釈を交えず、観察された事実のみを伝えることです。
良い例:「あなたは会議中に3回質問をして、メモを取りながら聞いていました」 悪い例:「あなたは積極的に参加していました」(これは解釈であり事実ではない)
事実に基づいた行動の説明により、相手は自分の行動を客観視しやすくなり、防御的な反応を示すリスクが大幅に減少します。
Impact(影響):行動がもたらした結果
最後に、その行動が周囲や組織、プロジェクトなどに与えた影響を説明します。
ポジティブフィードバックの場合はその良い影響をそのまま伝え、ネガティブフィードバックの場合は「心配している」「問題だと感じている」といった柔らかい表現を用いることが推奨されています。
影響を伝える際も、できる限り具体的で測定可能な要素を含めることで、フィードバックの説得力が高まります。
例えば、「チーム全体のモチベーションが向上した」「プロジェクトの進行が予定より2日早まった」「クライアントから高い評価を得られた」などです。
SBIモデルの実践例

ポジティブフィードバックの例
状況(S):「昨日の午後3時からのチーム会議で」
行動(B):「新しいアイデアを3つ提案し、それぞれについて具体的な実現方法まで説明してくれましたね」
影響(I):「その結果、チーム全体が活性化し、他のメンバーからも積極的な意見が出るようになりました。プロジェクトの方向性も明確になったと感じています」
ネガティブフィードバックの例
状況(S):「3月10日の顧客向けプレゼンテーションにおいて」
行動(B):「開始予定時刻から15分遅れて会議室に入り、資料の準備も開始後に行っていました」
影響(I):「顧客の方々をお待たせしてしまい、プレゼンの時間も短縮せざるを得なくなりました。今後このような状況が続くと、信頼関係に影響が出る可能性があると心配しています」
SBIIモデル:さらに効果的なフィードバックへ

SBIモデルには、Intent(意図)を加えた発展形「SBIIモデル」も存在します。これは、相手の行動の背後にある意図を質問によって確認するアプローチです。
「その行動を取ることで何を達成したいと思っていましたか?」「どのような気持ちでその発言をされたのでしょうか?」といった質問により、相手の意図と実際の影響の間にあるギャップに注意を向けさせることができます。
このアプローチにより、単なるフィードバックを超えて、相手の成長と学習を促進するコーチング的な対話が可能になります。
リモートワーク時代におけるSBIモデルの重要性

特にリモートワークが普及した現在、face-to-faceでのコミュニケーションが制限される中で、SBIモデルの価値はより一層高まっています。
オンライン環境では非言語的な情報が制限されるため、より明確で構造化されたフィードバックが不可欠となります。
SBIモデルを活用することで、物理的な距離があっても効果的なフィードバックを実現し、チーム全体のパフォーマンス向上とメンバーの成長を継続的に支援することができます。
フィードバック実施時の注意点

SBIモデルを効果的に活用するためには、以下の点に注意が必要です。
まず、タイミングが重要です。フィードバックすべき事象が発生してから時間が経過しすぎると、状況の記憶が曖昧になり、効果が薄れてしまいます。可能な限り迅速にフィードバックを行うことが推奨されています。
次に、相手の受容性を考慮することも大切です。フィードバックを受ける相手の状況や心理状態を観察し、適切なタイミングで伝えることで、より建設的な対話が可能になります。
また、双方向の対話を心がけることも重要です。SBIモデルは一方的な情報伝達ではなく、相手との対話を通じて相互理解を深めるためのツールとして活用することで、その真価を発揮します。
組織全体でのフィードバック文化の構築

SBIモデルの導入により、組織全体のコミュニケーション品質が向上し、より建設的で成長志向のフィードバック文化を構築することができます。管理職だけでなく、全てのメンバーがこの手法を習得することで、チーム内の信頼関係が強化され、継続的な学習と改善のサイクルが生まれます。
特に人材育成においては、SBIモデルを活用したフィードバックにより、メンバー一人ひとりの強みを明確化し、成長課題に対する具体的なアクションプランを共に策定することが可能になります。これにより、組織全体のパフォーマンス向上と個人の能力開発を同時に実現することができるのです。
効果的なフィードバックは、単なるコミュニケーション技術を超えて、組織の成長と成功を支える重要な基盤となります。SBIモデルの習得と実践により、より質の高い人材育成と組織運営を実現してください。
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