オンライン環境が当たり前となった現代において、SNSやデジタルプラットフォーム上でのハラスメントが深刻な社会問題となっています。
従来の職場で発生していたハラスメントがオンライン空間にも拡がり、さらにデジタル特有の新しい形態のハラスメントも生まれています。
リモートワークの普及により、職場のコミュニケーションがオンライン中心となった今、企業の管理職や人事担当者は、これまで以上に多様化したハラスメントへの対策が求められています。
特にSNSを通じた職場関係者同士のつながりや、オンライン会議でのやり取りなど、従来の職場の境界線が曖昧になっているからこそ、新たなリスクが生まれているのです。
本記事では、オンライン上で発生する代表的な8種類のハラスメントについて、具体的な事例とともに解説し、現代のビジネスパーソンが知っておくべき知識をお伝えします。
オンラインハラスメントとは

オンラインハラスメントとは、インターネット上のプラットフォームやデジタルツールを使って行われる嫌がらせや威圧的な行為を指します。
SNS、メール、チャットツール、オンライン会議システムなど、あらゆるデジタルコミュニケーション手段が対象となります。
従来の対面ハラスメントと比較して、オンラインハラスメントには以下のような特徴があります。
匿名性により加害者の特定が困難な場合がある一方で、デジタル上に証拠が残りやすいという二面性があります。
また、24時間いつでも被害を受ける可能性があり、一度投稿された内容が永続的に残ってしまう「デジタルタトゥー」のリスクも存在します。
さらに、オンラインでは相手の表情や声のトーンが伝わりにくいため、意図しない誤解が生じやすく、エスカレートしやすい傾向にあります。
オンライン上の8種類のハラスメント

1. サイバーブリング(ネットいじめ)
サイバーブリングは、オンライン上で継続的に特定の個人を標的とした嫌がらせを行う行為です。職場関係者がSNS上で同僚の悪口を拡散したり、グループチャットで特定の人を排除したりする行為が該当します。
具体的な例として、社内のSlackで特定のメンバーを意図的に会話から除外する、FacebookやTwitterで同僚の私生活について嘲笑的な投稿を行う、LINEグループから特定の人だけを外して陰口を言うなどがあります。
職場においては、チーム内でのオンラインコミュニケーションが活発になるほど、こうしたリスクが高まります。管理職は、デジタルツール上でのやり取りにも注意を払い、チーム全体の雰囲気を健全に保つ責任があります。
2. セクシャルハラスメント(セクハラ)
オンライン環境でのセクシャルハラスメントは、従来の職場以上に巧妙で発見が困難な場合があります。オンライン会議中の不適切な発言、プライベートメッセージでの性的な内容の送信、SNS上での容姿に関する不適切なコメントなどが該当します。
リモートワーク中のビデオ会議では、「自宅だからリラックスした服装で」「カメラの角度が良いね」といった一見軽い発言でも、受け手によってはセクハラと感じられる可能性があります。また、業務用チャットツールで業務時間外に個人的なメッセージを送り続ける行為も、デジタルセクハラの一形態として問題視されています。
特に注意が必要なのは、オンライン飲み会など非公式なデジタル集まりでの発言です。アルコールが入った状態でのオンライン交流では、対面以上に境界線が曖昧になりがちで、不適切な発言が生まれやすい環境となっています。
3. パワーハラスメント(パワハラ)
デジタル環境でのパワーハラスメントは、従来の職場での権力濫用がオンライン空間に移行したものです。上司が部下に対して業務時間外にも頻繁にメッセージを送る、オンライン会議で他の参加者の前で過度に叱責する、メールで威圧的な文面を送るなどの行為が該当します。
リモートワークにおいては、「常にオンラインにいることを求める」「プライベートな時間でも即座に返信を要求する」「ビデオ会議で常にカメラをオンにすることを強制する」といった新しい形のパワハラも生まれています。
また、チャットツールの既読機能を利用して「なぜすぐに返信しないのか」と詰問したり、画面共有機能を悪用して部下のプライベートな情報を覗き見しようとしたりする行為も、デジタルパワハラの典型例です。
4. ドクシング(個人情報暴露)
ドクシングとは、個人の同意なしにプライベートな情報をオンライン上で公開する行為です。職場関係者の住所、電話番号、家族構成などの個人情報をSNSや掲示板で拡散する行為が該当します。
最近では、リモートワーク中のビデオ会議で映り込んだ自宅の様子から住所を特定し、それをSNSで拡散するといった新しい形のドクシングも発生しています。また、退職した元同僚の個人情報を報復的に公開するケースも見られます。
企業においては、社員の個人情報保護について明確なガイドラインを設け、社内SNSやコミュニケーションツールでの情報共有ルールを徹底することが重要です。
5. フレーミング(なりすまし・偽情報拡散)
フレーミングは、他人になりすましたり、意図的に偽の情報を拡散したりして、特定の個人の評判を傷つける行為です。同僚のSNSアカウントを偽装して不適切な投稿を行ったり、虚偽の情報を流して信用失墜を図ったりする行為が含まれます。
職場では、競合他社への転職を検討している同僚について「機密情報を持ち出した」といった根拠のない噂をオンライン上で拡散したり、昇進争いのライバルについて虚偽の情報をSNSで流したりするケースがあります。
また、ビジネス系SNSのLinkedInで他人の実績を自分のものとして投稿したり、逆に他人の失敗を誇張して拡散したりする行為も、フレーミングの一種として問題となっています。
6. ストーキング(つきまとい)
オンラインストーキングは、デジタルプラットフォームを使って特定の個人を執拗に追跡したり、監視したりする行為です。SNSでの過度なフォローやコメント、位置情報の追跡、オンライン活動の監視などが該当します。
職場関係では、元恋人や片思いの相手のSNSアカウントを常に監視し、投稿に対して執拗にコメントしたり、プライベートメッセージを送り続けたりする行為が問題となっています。また、退職した元同僚のオンライン活動を追跡し続ける行為も、ストーキングに該当する可能性があります。
LinkedInやFacebookなどのビジネス系SNSでは、転職活動や新しい職場での活動を執拗に監視し、元職場の関係者に情報を流すといった行為も見られます。
7. ハッキング・不正アクセス
他人のアカウントに不正にアクセスし、プライベートな情報を盗み見たり、なりすまし投稿を行ったりする行為です。同僚のSNSアカウントやメールアカウントに無断でアクセスし、プライベートな情報を入手する行為が該当します。
職場では、共用パソコンに残ったログイン情報を悪用して他人のSNSアカウントにアクセスしたり、退職者のアカウント情報を削除せずに悪用したりするケースがあります。また、業務用のチャットツールのアカウントを乗っ取り、不適切なメッセージを送信する行為も問題となっています。
特にリモートワーク環境では、セキュリティ意識の低下により、こうしたリスクが高まる傾向にあります。企業は定期的なパスワード変更の徹底や、二段階認証の導入などの対策が必要です。
8. 集団での攻撃(モブ攻撃)
複数の人が結託して、オンライン上で特定の個人を攻撃する行為です。SNSでの炎上を意図的に引き起こしたり、複数のアカウントから同時に嫌がらせメッセージを送ったりする行為が該当します。
職場関係では、不人気な上司や同僚に対して、複数の社員がSNS上で一斉に批判的な投稿を行ったり、匿名掲示板で集団攻撃を仕掛けたりするケースがあります。また、労働組合活動や内部告発を行った社員に対して、組織的な嫌がらせを行う場合もあります。
このような集団攻撃は、個人の精神的ダメージが非常に大きく、深刻な心理的影響を与える可能性があります。企業は、こうした行為を防ぐための明確なポリシーと、発生した場合の迅速な対応体制を整備する必要があります。
なぜオンラインハラスメントが起こるのか?

オンラインハラスメントが頻発する背景には、デジタルコミュニケーション特有の課題があります。
これらの根本原因を理解することで、より効果的な予防策を講じることができます。
リモートでの管理に慣れていない
多くの管理職がリモートワーク環境でのマネジメントに不慣れなため、適切な距離感を保てずにハラスメントが発生するケースが増えています。対面での管理スタイルをそのままオンラインに持ち込むことで、過度な監視や威圧的なコミュニケーションが生まれやすくなります。
例えば、部下の業務進捗が見えないことへの不安から、必要以上に頻繁な報告を求めたり、カメラを常時オンにすることを強制したりする行為は、デジタルパワハラにつながる可能性があります。
また、オンライン会議での発言や態度についても、対面時とは異なる配慮が必要ですが、その認識が不足している管理職も少なくありません。
公私混同になりやすい
リモートワーク環境では、自宅という私的空間で業務を行うため、職場とプライベートの境界線が曖昧になりがちです。この公私混同が、様々な形のオンラインハラスメントの温床となっています。
業務時間外でも「自宅にいるのだから対応できるだろう」という思い込みから、深夜や休日にも業務連絡を送る行為や、ビデオ会議で映り込む自宅の様子について不適切なコメントをする行為などが典型例です。
また、SNSでつながった職場の同僚に対して、プライベートな投稿に業務関連のコメントをしたり、逆に業務用ツールで私的な話題を持ち込んだりすることも問題となります。
被害に遭わないために気をつけること

オンラインハラスメントの被害を未然に防ぐため、個人レベルでできる対策があります。
これらの予防策を実践することで、リスクを大幅に軽減できます。
服装、音、カメラの場所に気を付ける
ビデオ会議では、服装、周囲の音、カメラの設置場所に特に注意を払いましょう。
適切なビジネス服装を心がけ、カメラの角度や映る範囲を事前に確認することで、不適切なコメントを受けるリスクを減らせます。
具体的には、カメラは目線の高さに設置し、背景には個人的な情報が映り込まないよう配慮します。
また、家族の声や生活音が入らないよう、静かな環境を確保するか、ノイズキャンセリング機能を活用しましょう。
照明にも注意し、顔がはっきりと見える明るさを保つことで、プロフェッショナルな印象を維持できます。
相手に随時業務の進行状況を報告する
定期的な進捗報告は、上司の不安を解消し、過度な監視や催促を防ぐ効果があります。
自主的に業務状況を共有することで、健全なコミュニケーションを維持できます。
日次や週次での進捗報告を習慣化し、課題や困りごとがある場合は早めに相談することが重要です。
また、業務開始時と終了時にチームチャットで一言報告するなど、「見える化」を心がけることで、管理者側の不安を軽減し、適切な距離感を保つことができます。
自分自身が加害者にならないために

オンラインハラスメントは、意図せずに加害者になってしまうケースも多く見られます。
以下の点に注意することで、無自覚なハラスメントを防ぐことができます。
配慮ある言動を心がける
オンラインコミュニケーションでは、表情や声のトーンが伝わりにくいため、対面以上に丁寧で配慮のある言動を心がけることが重要です。
特に、冗談やカジュアルな発言は、相手に誤解を与える可能性があるため注意が必要です。
メッセージを送信する前に、相手の立場に立って内容を見直す習慣をつけましょう。また、業務時間外のメッセージ送信は控え、緊急時以外は翌営業日に連絡するよう心がけます。SNS上では、職場関係者の投稿に対するコメントやリアクションについても慎重に判断し、プライベートな内容には安易に言及しないよう注意しましょう。
さらに、オンライン会議では、参加者全員が快適に参加できるよう配慮し、特定の人を話題の中心にしたり、外見や私生活について言及したりすることは避けるべきです。
自社での発生を防ぐために企業ができること

企業レベルでオンラインハラスメントを防ぐためには、明確なルールの策定と徹底した運用が必要です。
リモートワークに関する就業規則を制定
従来の就業規則に加えて、リモートワーク特有の課題に対応した規則を新たに制定することが重要です。
オンライン会議でのマナー、業務時間外の連絡ルール、SNSでの職場関係者とのやり取りに関するガイドラインなど、具体的で実践的な内容を盛り込みましょう。
これらの規則では、禁止事項だけでなく、推奨される行動についても明記し、社員が迷わずに適切な判断ができるよう支援します。
また、違反があった場合の対処方法についても明確に定めておくことで、迅速で公正な対応が可能になります。
社内周知を徹底
制定した規則やガイドラインは、全社員に確実に周知することが不可欠です。
単発の説明会だけでなく、定期的な研修や事例共有を通じて、継続的に意識向上を図ることが重要です。
新入社員研修や管理職研修にオンラインハラスメント防止の内容を組み込み、具体的な事例を用いたケーススタディを実施することで、理解を深めることができます。
また、社内報やイントラネットを活用した情報発信により、最新の動向や注意点を定期的に共有しましょう。
相談窓口を設置
オンラインハラスメントの被害を受けた場合に、安心して相談できる窓口を設置することが重要です。匿名での相談も可能にし、相談者のプライバシーを厳重に保護する体制を整備しましょう。
相談窓口では、専門的な知識を持つ担当者が対応し、被害者の心理的サポートから具体的な解決策の提案まで、包括的な支援を提供します。
また、相談内容に応じて、法務部門や外部の専門機関との連携も図れるよう、ネットワークを整備しておくことが重要です。
オンラインハラスメント被害を感じた際の対処法

実際にオンラインハラスメントの被害を受けた場合、適切な対処を行うことで問題の解決と再発防止を図ることができます。
被害の証拠を揃える
オンラインハラスメントの特徴として、デジタル上に証拠が残りやすいことが挙げられます。この特性を活かし、被害の証拠を確実に保存しておくことが重要です。
スクリーンショットやメッセージの保存、通話録音(法的に許可される範囲で)、被害を受けた日時の記録など、可能な限り詳細な証拠を収集しましょう。
また、第三者の証言が得られる場合は、その内容も記録しておきます。これらの証拠は、後の相談や法的手続きにおいて重要な役割を果たします。
相談する
一人で問題を抱え込まず、信頼できる人や適切な機関に相談することが重要です。
社内の相談窓口、人事部門、上司(加害者でない場合)、労働組合、外部の専門機関など、状況に応じて適切な相談先を選択しましょう。
相談の際は、収集した証拠を整理して持参し、被害の状況を具体的に説明できるよう準備します。また、希望する解決方法についても事前に考えておくことで、より効果的な支援を受けることができます。
必要に応じて、法的な助言を求めることも検討しましょう。
企業が取るべき対策

オンラインハラスメントの多様化に対応するため、企業は包括的な対策を講じる必要があります。
まず、デジタルコミュニケーションガイドラインの策定が重要です。SNSやチャットツールでの適切な発言、業務時間外のメッセージ送信に関するルール、プライベートな情報の取り扱いについて明確な基準を設けることで、社員の意識向上を図ることができます。
次に、定期的な研修の実施により、社員のリテラシー向上を図ることが効果的です。
オンラインハラスメントの種類や具体例、被害を受けた場合の対処法について学ぶ機会を提供し、予防意識を高めることが重要です。
また、相談窓口の整備も欠かせません。
オンラインハラスメントの被害を受けた場合に、安心して相談できる環境を整備し、迅速かつ適切な対応を行うための体制を構築する必要があります。
さらに、技術的な対策として、社内システムのセキュリティ強化、アクセス権限の適切な管理、ログの監視体制なども重要な要素となります。
さいごに

オンライン環境の普及により、ハラスメントの形態は多様化し、その影響範囲も拡大しています。
従来の対面でのハラスメント対策だけでは十分ではなく、デジタル特有のリスクに対応した包括的な取り組みが必要です。
企業の管理職や人事担当者は、今回紹介した8種類のオンラインハラスメントについて正しく理解し、適切な予防策と対応策を講じることで、安全で健全な職場環境の維持に努めることが求められています。
デジタル化が進む現代において、オンラインハラスメント対策は企業のリスクマネジメントの重要な要素となっています。継続的な教育と環境整備により、すべての社員が安心して働ける職場づくりを目指していきましょう。
BasisPoint Academyでは、オンラインハラスメント防止に特化した研修プログラムをご用意しています。リモートワーク環境における効果的なコミュニケーション方法や、管理職向けのマネジメント手法など、御社の状況に合わせたカスタマイズも可能です。ぜひお気軽にご相談ください。
▶ BasisPoint Academyのハラスメント研修について詳しくはこちら