職場環境の改善と従業員の安全を守るため、ハラスメントへの理解と対策は現代の企業運営において欠かせない要素となっています。
特に人事担当者は、さまざまなハラスメントの種類や定義を正確に把握し、適切な予防策と対応方法を講じる責任があります。
この記事では、人事担当者が押さえておくべきハラスメントの基礎知識について解説します。
ハラスメントの定義から主要な種類、そして企業として取るべき対策まで、実務に役立つ情報をお届けします。
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ハラスメントとは

ハラスメントとは、相手に対して行われる、不快感や精神的苦痛を与える言動や行為のことです。
職場におけるハラスメントは、被害者の心身の健康を損なうだけでなく、職場全体の生産性低下や人材流出といった深刻な問題を引き起こします。
さらに、企業のレピュテーションリスクや法的リスクにも直結するため、企業経営の観点からも重要な課題となっています。
ハラスメントの認識は当事者間で大きく異なる場合があります。
特に加害者側は「冗談のつもりだった」「指導の一環だった」と認識していることも少なくありません。重要なのは、行為の意図ではなく、受け手がどう感じたかという点です。
主なハラスメントの種類と定義

現代の職場で問題となるハラスメントは多岐にわたります。人事担当者として特に押さえておくべき主なハラスメントは以下の通りです。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
性的な言動により、相手に不快感や不利益を与える行為です。職場におけるセクハラは、男女雇用機会均等法で明確に禁止されています。
具体例としては、不必要な身体的接触、性的な冗談やからかい、私生活に関する過度な質問、性的な関係の強要、容姿に関する不適切な発言などが挙げられます。
また、職場に性的な画像を掲示するなどの行為も該当します。
セクハラは「対価型」と「環境型」の2つに分類されます。
対価型は、性的な要求を拒否したことで昇進や評価に影響が出るケース、環境型は性的な言動により職場環境が悪化するケースを指します。
パワーハラスメント(パワハラ)
職場における優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える行為です。
2020年6月からは、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、企業にパワハラ防止措置が義務付けられています。
パワハラの具体例としては、以下の6類型が厚生労働省から示されています。
- 身体的な攻撃:暴行や傷害など
- 精神的な攻撃:脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言など
- 人間関係からの切り離し:隔離、仲間外れ、無視など
- 過大な要求:明らかに達成不可能な目標の設定、必要以上の長時間労働など
- 過小な要求:能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じるなど
- 個の侵害:私生活への過度な干渉など
パワハラの判断においては、「優位性」「業務の適正範囲を超えているか」「労働者の就業環境が害されているか」という3つの要素が重要です。
ただし、業務上必要な指導や注意は、適切に行われる限りパワハラには当たりません。
マタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産・育児休業等を理由とした嫌がらせや不利益な取り扱いのことです。
男女雇用機会均等法および育児・介護休業法で禁止されています。
具体例としては、妊娠を報告したことによる降格や解雇、妊娠中の女性への心ない発言、育休取得を理由とした評価の低下などが挙げられます。
近年では、男性の育児休業取得も増えていることから、男性社員への育休関連のハラスメントも問題となっています。
モラルハラスメント(モラハラ)
明確な暴力や暴言を用いずに、相手の人格や尊厳を傷つける言動を繰り返し行うことです。
表面上は穏やかであっても、言葉の選び方や態度、無視するなどの行為によって相手に精神的苦痛を与えます。
モラハラの特徴は、他者には気づかれにくく、被害者も自分が被害を受けていることに気づきにくい点にあります。
長期にわたって継続されることで、被害者の自尊心が徐々に損なわれていくケースが多いです。
ソーシャルメディアハラスメント
SNSなどのソーシャルメディアを利用したハラスメントです。
職場の同僚や部下についての悪口や個人情報をSNSに投稿する、職場の写真を無断で投稿する、業務時間外でもしつこくメッセージを送るなどの行為が該当します。
プライベートのSNSであっても、職場関係者について投稿すれば企業イメージに影響する可能性があります。
また、一度インターネット上に出た情報は完全には消せないという特性を持ちます。
テクノロジーハラスメント(テクハラ)
ITリテラシーの差を利用したハラスメントです。デジタル機器やシステムの操作に不慣れな人に対して、嫌がらせや過度な批判を行うことを指します。
「こんなことも知らないのか」と相手を見下した態度を取る、必要な情報をデジタルツールでしか共有しない、ITスキルの低さを理由に人格を否定するといった行為が含まれます。
リモートハラスメント
テレワークの普及により増加している、オンライン環境下でのハラスメントです。
ビデオ会議での不適切な発言や、業務時間外のメッセージ送信、オンライン会議での無視など、対面ではない環境特有の問題が生じています。
在宅勤務中の私生活への過度な干渉(常時カメラをオンにするよう強要するなど)もリモートハラスメントに該当します。
ハラスメント対策:人事担当者が取るべき行動

人事担当者として、効果的なハラスメント対策を講じるためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
1. 明確なポリシーの策定と周知
ハラスメントに関する企業方針を明確に文書化し、全従業員に周知することが基本となります。
ポリシーには以下の内容を含めることが望ましいです。
- ハラスメントの定義と具体例
- 禁止される行為の明示
- 相談・報告の仕組み
- 違反時の懲戒処分の内容
- 相談者・通報者の保護方針
方針は定期的に見直し、最新の法改正や社会情勢に合わせて更新していくことが大切です。
2. 相談窓口の設置
従業員がハラスメントについて安心して相談できる窓口を設置しましょう。
内部の相談窓口だけでなく、外部の専門機関と連携した窓口を併設することも有効です。
相談窓口は以下の条件を満たすことが重要です。
- 相談のハードルが低い(匿名での相談も可能など)
- 相談内容の秘密が厳守される
- 相談者が不利益を被らない
- 公平・中立的な立場で対応できる
3. 定期的な研修の実施
ハラスメント防止のための研修を定期的に実施しましょう。
特に管理職には、より詳細な研修が必要です。研修内容としては、以下のようなものが考えられます。
- ハラスメントの定義と種類
- グレーゾーンの事例検討
- アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)への気づき
- 適切なコミュニケーション方法
- 問題が発生した際の対応方法
研修は一方的な知識の伝達ではなく、ワークショップやディスカッションを取り入れ、参加者が主体的に考える機会を設けることが効果的です。
4. 迅速かつ適切な問題対応
ハラスメント事案が発生した場合は、迅速かつ適切に対応することが求められます。
対応の流れとしては、以下のステップが一般的です。
- 事実関係の調査(被害者・加害者双方からのヒアリング)
- 調査結果に基づく判断
- 是正措置の実施(加害者への処分、被害者のケア、再発防止策など)
- フォローアップ
調査にあたっては、プライバシーの保護と公平性の確保に十分配慮しましょう。
5. 組織文化の醸成
ハラスメント防止には、尊重と共感に基づく組織文化の醸成が不可欠です
。トップマネジメントからのメッセージ発信や、日常的なコミュニケーションの見直しなどを通じて、互いを尊重する文化を育てていきましょう。
具体的な取り組みとしては、以下のようなものがあります。
- 経営層からのハラスメント防止に関するメッセージの定期的な発信
- 多様性を尊重する風土づくり
- オープンなコミュニケーションの奨励
- 管理職の評価項目にハラスメント防止の取り組みを含める
人的資本経営とハラスメント防止の関係

近年注目されている人的資本経営の観点からも、ハラスメント防止は重要なテーマです。
従業員が心理的安全性を感じられる環境を整備することは、人材の定着率向上や生産性向上につながります。
ハラスメントの防止と適切な対応は、単にリスク管理ではなく、企業の持続的成長のための投資と捉えることが大切です。
従業員のウェルビーイングを高め、一人ひとりが能力を最大限に発揮できる環境づくりに、ハラスメント対策は直結しています。
さいごに

ハラスメント対策は、法令遵守という観点だけでなく、企業の持続的な成長と従業員の幸福のために欠かせない取り組みです。
人事担当者は、さまざまなハラスメントの種類と定義を正確に理解し、予防と対応の両面から適切な措置を講じることが求められています。
明確なポリシーの策定、相談窓口の設置、定期的な研修の実施、迅速な問題対応、そして尊重と共感に基づく組織文化の醸成を通じて、ハラスメントのない健全な職場環境を実現していきましょう。
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