ビジネスの現場では、異なる世代が同じ職場で働くことで生まれる摩擦が新たな課題となっています。
特に近年、「ジェネレーションハラスメント」という言葉が注目されるようになりました。
年齢や世代の違いによる価値観の相違から生じるこの問題は、職場環境を悪化させるだけでなく、企業の生産性にも影響を及ぼします。
今回は、ジェネレーションハラスメントの実態と対策について考えてみましょう。
BasisPoint Academy(BPA)では、リーダー層、管理職の方に「1日で学ぶ実践ハラスメント研修」をご提供しております。具体的な事例を基にハラスメントの種類・発生要因・適切な対処法を学び、ハラスメントを防ぐためのマインドセットや実践的な対応策を習得するプログラムです。
ジェネレーションハラスメントとは

ジェネレーションハラスメント(世代間ハラスメント)とは、年齢や世代の違いによる価値観や行動様式の相違を理由に、相手を批判したり、否定的な言動をとったりするハラスメントのことです。
上の世代から下の世代へ、あるいは下の世代から上の世代へと双方向で発生する可能性があります。
現代の職場では、最大で4つの世代が同時に働いているケースも珍しくありません。
それぞれが育った時代背景や社会環境が大きく異なるため、働き方や仕事に対する考え方にも自然と差が生じます。
このような違いは本来、組織に多様性をもたらす貴重な要素ですが、互いを理解し尊重する姿勢が欠けると、世代間の対立やハラスメントにつながってしまいます。
よく見られる例として、年配の社員が若手に対して「最近の若者は根性がない」「私たちの若い頃は~していた」などと一方的に批判するケースや、逆に若手社員が年配社員に対して「古い考え方だ」「デジタルについていけていない」などと発言するケースが挙げられます。
関連記事:知らずにやっていませんか?職場に潜む無自覚ハラスメントの実態
世代間の主な価値観の違い

世代によって、働き方や価値観には大きな違いがあります。主な世代区分とその特徴を見てみましょう。
団塊世代・バブル世代(1940年代後半~1960年代生まれ)
- 終身雇用を前提とした会社への忠誠心が強い
- 上下関係や序列を重視する傾向がある
- 仕事における「我慢」や「忍耐」を美徳とする
- 対面でのコミュニケーションを重視
この世代は、高度経済成長期やバブル期に社会人としてのキャリアを歩み始めた方々です。
経済的な右肩上がりの時代を経験し、会社に尽くせば安定した生活が得られるという価値観が根付いています。
そのため、長時間労働や会社への献身を当然と考える傾向があり、若い世代の効率重視の働き方や帰属意識の低さに違和感を抱くことがあります。
X世代(1970年代~1980年代前半生まれ)
- バブル崩壊後の就職氷河期を経験
- 安定志向だが、会社への依存度は団塊世代より低い
- デジタル化の黎明期を経験し、アナログとデジタルの両方に適応
X世代は、バブル崩壊後の厳しい経済状況の中でキャリアをスタートさせた世代です。
終身雇用制度の崩壊を目の当たりにし、「会社に頼りすぎない」という意識が芽生え始めました。
また、パソコンやインターネットの普及期に社会人となったため、デジタルへの適応力はありながらも、紙の文化や対面コミュニケーションの価値も理解しています。
いわば、旧来の価値観と新しい価値観の橋渡し的な立場にある世代といえるでしょう。
ミレニアル世代(1980年代後半~1990年代生まれ)
- デジタルネイティブの最初の世代
- ワークライフバランスを重視
- 会社よりも自分のキャリアを優先する傾向
- 多様性を尊重し、柔軟な働き方を求める
ミレニアル世代は、インターネットが当たり前の環境で育った最初の世代です。
彼らにとって、デジタルツールは単なる便利な道具ではなく、生活や仕事の一部として深く統合されています。
また、先行世代の長時間労働や会社中心の生活スタイルを見て育ったことで、より健全なワークライフバランスを重視する傾向があります。
会社への忠誠心よりも、自分のスキルアップやキャリア形成を優先し、必要があれば転職も厭わないのが特徴です。
Z世代(2000年前後~生まれ)
- 生まれた時からインターネットやSNSがある環境で育つ
- リモートワークやフレキシブルな働き方を当然と考える
- 社会的意義や環境問題などの社会課題に関心が高い
- 効率性を重視し、無駄な時間や労力を避ける傾向
Z世代は、スマートフォンやSNSが当たり前の環境で育った世代です。
デジタルコミュニケーションが主流であるため、対面でのやり取りよりもオンラインでのコミュニケーションを自然と感じる傾向があります。
また、コロナ禍でのリモートワークの普及もあり、「出社して働く」という概念にとらわれない柔軟な働き方を志向します。
環境問題や社会的公正など、より大きな社会課題への関心も高く、仕事を選ぶ際にも、企業の社会的責任や環境への取り組みを重視する傾向があります。
これらの世代間の違いは、単なる年齢の差ではなく、それぞれが育った社会背景や経済状況、テクノロジーの発展度合いによって形成されてきたものです。
どの価値観が「正しい」というわけではなく、各世代の経験に基づいた視点があることを理解することが重要です。
ジェネハラの具体的事例

ジェネレーションハラスメントは日常的な職場のやり取りの中で発生しやすく、意図せず相手を傷つけてしまうことも少なくありません。
具体的にどのような言動がジェネハラに該当するのか、両方の視点から見ていきましょう。
シニア世代から若手世代へのジェネハラ例
経験主義的批判
「若いうちは苦労するべきだ」「最近の若者は忍耐力がない」など、自分の経験を基準に若手を批判
デジタルスキルへの抵抗
「今までのやり方で十分だ」とデジタル化への変化を拒み、新しい方法を提案する若手を否定
勤務態度への批判
「定時で帰るなんて仕事に対する情熱が足りない」と時間外労働を美徳とする価値観の押しつけ
コミュニケーションスタイルの否定
「報告はメールではなく直接顔を見て行うべきだ」とオンラインコミュニケーションを軽視
シニア世代からのジェネハラは、多くの場合「私たちの時代は」という比較から始まります。
自分が経験した苦労や努力を基準に若手を評価するため、異なる働き方や価値観を認めづらい傾向があります。
特に、長時間労働を美徳とする考え方や、対面コミュニケーションへのこだわりが強い場合、効率性や柔軟性を重視する若手世代との軋轢が生じやすくなります。
また、「若者はすぐに辞める」「根性がない」といった一括りの評価は、個人の能力や意欲を適切に評価していないと若手に感じさせ、モチベーション低下の原因となります。
若手世代からシニア世代へのジェネハラ例
デジタルスキル不足への侮蔑
「そんなこともわからないの?」とITリテラシーの差を理由に見下す言動
変化への抵抗感の批判
「古い考え方にこだわりすぎ」「時代遅れだ」と経験や慎重さを否定
仕事のスピード感の違いへの批判
「もっと効率的にできるのに」と丁寧さや確実さを重視する姿勢を軽視
言葉遣いや敬語の軽視
ビジネスマナーやフォーマルなコミュニケーションを軽視する態度
若手世代からのジェネハラは、テクノロジーへの親和性の違いから生じるケースが多く見られます。
デジタルツールの操作に手間取るシニア世代に対して、「そんなことも分からないの?」といった発言は、相手の経験や知識の他の側面を無視し、デジタルスキルだけで人を判断する態度につながります。
また、「古い」「時代遅れ」といった言葉で経験に基づく慎重さを否定したり、ビジネスマナーやフォーマルなコミュニケーションを「面倒くさい」と軽視したりする姿勢も、シニア世代の価値観を尊重していないと受け取られかねません。
ジェネハラの特徴は、それが「世代」という大きなくくりで相手を評価し、個人の能力や人格を適切に見ていない点にあります。
どの世代にも多様な個性や能力を持った人がいるにもかかわらず、「若者は」「年配者は」といった枠で判断してしまうことが、相互理解を妨げる大きな要因となっています。
ジェネハラが企業にもたらす影響

ジェネレーションハラスメントは、職場環境だけでなく企業全体にも大きな影響を及ぼします。
- 組織の分断:世代間の対立が深まり、チームワークが損なわれる
- 優秀な人材の流出:ハラスメントを受けた若手が離職する可能性が高まる
- イノベーションの停滞:多様な視点やアイデアが尊重されず、新しい発想が生まれにくくなる
- 生産性の低下:コミュニケーション不全により業務効率が悪化する
- 企業イメージの低下:ハラスメント問題が表面化すると、採用活動や企業ブランドにも悪影響
ジェネハラが放置されると、世代間の溝が深まり、「若手チーム」と「ベテランチーム」といった分断が生じることがあります。
この分断は情報共有を妨げ、業務の非効率化や重複作業を招きかねません。
特に深刻なのは人材流出の問題です。
若手社員がジェネハラを経験すると、「この会社では自分の意見や能力が正当に評価されない」と感じて転職を考えるケースが増加します。
調査によると、ハラスメントを受けた社員の離職率は、そうでない社員と比べて約2倍になるというデータもあります。
また、多様な視点が尊重されない環境では、イノベーションも生まれにくくなります。
経験豊富なシニア世代の知見と、新しい発想を持つ若手世代のアイデアが融合することで初めて生まれる革新的なソリューションが失われてしまいます。
さらに、ハラスメント問題が表面化すると、企業の評判にも悪影響を及ぼし、採用活動での応募者減少や取引先からの信頼低下にもつながりかねません。
ジェネハラの影響は個人の心理的ストレスに留まらず、組織全体のパフォーマンスや企業文化にまで及ぶことを認識する必要があります。
ジェネハラを防ぐための対策

企業として取り組むべきこと
- 世代間ギャップへの理解促進:各世代の特徴や価値観について学ぶ研修を実施
- 相互尊重の文化醸成:多様性を受け入れる組織文化の構築
- コミュニケーション機会の創出:異なる世代が交流する場を意図的に設ける
- 明確なハラスメント防止ポリシーの策定:ジェネハラも含めたハラスメント防止の指針を明確化
- 360度評価の導入:多角的な視点から評価を行い、世代による偏りを防ぐ
企業レベルでの対策として最も重要なのは、世代間の相互理解を促進する機会を意図的に設けることです。
各世代の特徴や価値観、その背景にある社会状況などについて学ぶ研修を定期的に実施することで、「なぜ他の世代はそう考えるのか」という理解が深まります。
特に管理職に対しては、世代間ギャップを理解した上でのチームマネジメント手法を学ぶ機会を提供することが効果的です。
また、組織全体として「多様性を尊重する」という明確なメッセージを発信し続けることも重要です。
年齢や世代だけでなく、性別、国籍、障害の有無など、あらゆる違いを組織の強みとして捉える文化を育むことが、ジェネハラの予防にもつながります。
具体的には、異なる世代のメンバーで構成されるプロジェクトチームの編成や、メンター・メンティー制度の導入、社内コミュニティの活性化など、世代を越えた交流の機会を増やす取り組みが有効です。
さらに、評価制度においても、年功序列や若手優遇といった世代バイアスが生じないよう、多角的な視点からの評価(360度評価など)を導入することで、公平性を担保することが大切です。
個人レベルで心がけるべきこと
- 違いを理解する努力:異なる世代の考え方や価値観を理解しようとする姿勢
- 自己の固定観念を認識:自分の価値観が絶対ではないことを認識する
- 良いところを見つける:世代の違いによるメリットを積極的に見つける
- オープンマインドな対話:先入観なしに相手の話を聞く姿勢
- 言葉遣いへの配慮:世代を一括りにした発言を避ける(「若者は~」「年配者は~」など)
個人レベルでは、まず自分自身の固定観念や偏見に気づくことが第一歩です。
「若者は〜」「年配者は〜」というステレオタイプで相手を見るのではなく、一人の個人として接するよう心がけましょう。
また、異なる世代の同僚と積極的に対話する機会を持ち、その考え方や価値観に耳を傾けることも大切です。
特に注意したいのは言葉遣いです。「デジタルネイティブだから当然わかるよね」「アナログ世代だから難しいかな」といった、世代を理由にした決めつけは避けるべきです。
代わりに、「この操作方法について質問があれば聞いてください」「この方法についてアドバイスがほしいです」など、個人の能力や知識に焦点を当てた表現を心がけましょう。
また、世代の違いをネガティブに捉えるのではなく、「シニア世代の経験から学べること」「若手世代のデジタルスキルを活かせること」など、お互いの強みを認め合い、補完し合える関係性を構築することが重要です。
相手を尊重する姿勢と、自分とは異なる価値観への好奇心を持つことが、ジェネハラ防止の鍵となります。
世代間の協働がもたらすメリット

ジェネハラを乗り越え、異なる世代が協働することで、以下のようなメリットが生まれます。
- 多様な視点の獲得:異なる経験や価値観による多角的な問題解決能力
- 知識とスキルの相互補完:シニア世代の経験と若手世代の新しい技術の融合
- 組織の持続可能性向上:知識やノウハウの継承がスムーズになる
- イノベーションの促進:異なる視点の融合による新しいアイデアの創出
- 職場環境の活性化:多様な世代が活躍する活気ある職場の実現
世代間の協働がうまく機能している組織では、各世代の強みが相互に補完し合う「シナジー効果」が生まれます。
例えば、シニア世代が持つ業界知識や人脈、交渉術などの経験値と、若手世代が持つデジタルスキルやトレンド感覚が融合することで、従来にない革新的なアプローチが生まれることがあります。
また、異なる世代が共に働くことで、組織内の知識やノウハウの継承もスムーズになります。
形式化されていない暗黙知や、長年の経験から得られた判断基準などは、日常的な交流の中で自然と伝わっていくものです。
世代間のコミュニケーションが活発な組織では、この知識継承のプロセスがより効果的に機能します。
さらに、多様な世代が互いを尊重し合う職場環境は、社員の帰属意識や満足度も高まる傾向があります。
「年齢に関係なく意見が尊重される」という実感は、若手の定着率向上や、シニア世代のモチベーション維持にもつながります。
結果として、組織全体の活力が増し、競争力の向上につながるのです。
世代間の違いを「対立」ではなく「補完」と捉え直すことで、組織はより強靭で創造的になれることを認識することが大切です。
さいごに

ジェネレーションハラスメントは、世代間の価値観の違いから生じる現代的な課題です。
しかし、これは単に避けるべき問題ではなく、多様性を活かした組織づくりへの転換点と捉えることができます。
異なる世代が互いを尊重し、それぞれの強みを活かすことで、組織はより創造的で強靭なものになります。
職場での世代間ギャップは、今後も続く課題です。
働き方改革の推進や年金支給開始年齢の引き上げにより、職場における年齢層の幅はさらに広がることが予想されます。
そのような中で、世代間の相互理解と尊重を深めることは、企業の持続的な成長にとって不可欠な要素となるでしょう。
世代間の違いを「対立」ではなく「多様性」として捉え直し、相互理解を深めることが、ジェネハラを解消し、より良い職場環境を構築する鍵となるでしょう。
BasisPoint Academyでは、ジェネレーションハラスメント防止に特化した研修プログラムをご用意しています。
世代間の相互理解を促進するワークショップや、多様性を尊重したコミュニケーション手法など、御社の状況に合わせたカスタマイズも可能です。
組織内の世代間ギャップを強みに変える取り組みを、専門的なノウハウでサポートいたします。 ぜひお気軽にご相談ください。