急速に進む高齢化社会において、職場では従来よりも幅広い年齢層の従業員が同じ環境で働くことが当たり前になっています。現在、日本の65歳以上の高齢化率は29.3%に達し、まさに超高齢化社会の真っ只中にあります。このような状況下で、新たに注目されているハラスメントが「エイジハラスメント(エイハラ)」です。
(参考:統計からみた我が国の高齢者―『敬老の日』にちなんで―)
ハラスメント関連の検索は過去10年で3倍に増加しており、特にエイハラへの関心も高まっています。しかし、エイハラは多くの企業でまだ十分に認識されておらず、知らず知らずのうちに職場で発生している可能性があります。この記事では、エイハラの実態と多世代が共存する職場環境を構築するためのヒントを詳しく解説します。
エイジハラスメント(エイハラ)とは

基本的な定義
エイジハラスメントとは、年齢をもとにした差別や悪意を伴う言動、年齢のみを基準とした仕事の割り振りなどを指します。日本では、パワハラやセクハラなどの他のハラスメント行為と同様に、エイハラと短縮して呼ばれることもあります。
重要なのは、エイハラは法令で定義されているわけではないものの、職場環境に深刻な影響を与えるハラスメントであることです。パワハラやセクハラと同じく、被害者の受け取り方によってハラスメントが成立する性質があります。
エイハラの対象となる世代
かつては会社内での中高年層に対しての嫌がらせのみを指していましたが、現在は高齢者への嫌がらせや、若手への嫌がらせなども指します。つまり、エイハラは年齢に関係なく、どの世代でも加害者にも被害者にもなり得るハラスメントです。
職場で起こりやすいエイハラの具体例

中高年層に対するエイハラ
職場でよく見られるエイハラの例として、以下のようなケースがあります。
呼び方による差別
年上の人を「おじさん」「おばさん」と呼んだりすることや、本人の了承なしに年齢を強調する呼び方をすることです。
仕事の割り振りでの差別
年齢だけを理由にそれより若い部下に行わせたり、仕事を割り振ることを却下したりすることは明確なエイハラに該当します。健康面や体力を考慮することは大切ですが、年齢のみを判断基準にするのは問題があります。
年齢を理由とした否定的な発言
「もう年なんだから無理しないで」「その年になってまだこんなこともできないの?」といった発言は、労りの気持ちがあったとしてもエイハラとして受け取られる可能性があります。
若手世代に対するエイハラ
若さを理由とした決めつけ
「まだ若いから」など、若いことを未熟だと捉える行為や、「これだからゆとり世代は」といった世代を一括りにした発言も代表的なエイハラです。
年齢による業務の押し付け
若いという理由だけで過度に多くの業務を任せたり、本人の意思に関係なく特定の業務を割り当てることもエイハラに該当する可能性があります。
「ちゃん」付けでの呼び方
年下の部下を「ちゃん」付けで呼ぶことも、相手が不快に感じた場合はエイハラとなり得ます。
高齢化社会がエイハラに与える影響

多世代職場の現実
現在の日本では高齢者の就業率が25.2%と、4人に1人が就業している状況です。これにより、職場では20代から70代まで、実に50年の年齢幅がある従業員が同じ環境で働くことが珍しくありません。
このような多世代職場では、育ってきた時代背景や価値観の違いが大きく、9割以上が別世代に対して「仕事に対する考え方」が違うと実感しているという調査結果も出ています。
(参考:統計からみた我が国の高齢者―『敬老の日』にちなんで―)
世代間ギャップの実態
職場で年上に世代間ギャップを感じることのランキングでは、1位が「日常会話の話題が合わない」、2位が「仕事への姿勢が違う」、3位が「IT・PCが苦手」となっています。
これらの世代間の違いを理解せずに、年齢を根拠とした否定的な発言や行動を取ることが、エイハラの温床となっています。
(参考:職場で年上に世代間ギャップを感じることランキング!働く男女498人へ徹底調査)
エイハラが職場に与える深刻な影響

労働生産性への影響
エイハラが発生すると、被害者だけでなく職場全体に以下のような悪影響が生じます。
- コミュニケーションの悪化: 世代間の対話が減少し、情報共有が困難になる
- モチベーションの低下: 被害者だけでなく、目撃者もストレスを感じる
- チームワークの崩壊: 協調性が失われ、組織の生産性が低下する
人材流出のリスク
厚生労働省の令和5年度調査によると、過去3年間に勤務先で受けたハラスメントとしてパワハラが最も高く19.3%を占めています。エイハラも含めたハラスメント全般が、優秀な人材の早期退職を招く要因となっており、企業にとって大きな損失となっています。
(参考:厚生労働省「『職場のハラスメントに関する実態調査』の報告書を公表します」)
企業イメージへの影響
ハラスメント問題は企業の評判に直結します。特に多様性を重視する現代において、年齢差別を容認する企業は社会的な信頼を失うリスクが高まります。
多世代共存の職場環境を構築する5つのヒント

1. エイハラへの認識向上
まず重要なのは、エイジハラスメントはセクハラやパワハラ同様に、すでに広く普及しており、法でも定義されているパワハラやセクハラと比較すると、エイジハラスメントは未だ普及の途上にあるという現状を理解することです。
具体的な取り組み:
- 全社員向けのエイハラ研修の実施
- エイハラの具体例を盛り込んだガイドラインの作成
- 管理職への特別研修の実施
2. 世代別特性の理解促進
職場における代表的なジェネレーションギャップとして、若手世代は効率性や即時性を重視する一方、上の世代は経験や慎重さを重視する傾向があります。
各世代の特徴を理解する
- ベテラン世代: 豊富な経験、長期的視点、階層重視
- 中堅世代: バランス感覚、橋渡し役、実務能力
- 若手世代: デジタルネイティブ、効率重視、多様性への理解
3. コミュニケーション改革
職場のコミュニケーションが不足していた場合には、何気ない一言が「エイジハラスメント」として受け取られてしまう可能性があります。
効果的な取り組み
- 世代を超えたメンタリング制度の導入
- 定期的な多世代交流イベントの開催
- 年齢に関係なく成果で評価する仕組みづくり
4. 相談・報告体制の整備
ハラスメントの被害に遭っても、「我慢した。特に何もしなかった」という対応をとらざるを得ないことが多く、「相手に抗議した」などの対応をとれることはごくわずかです。
必要な体制
- 匿名での相談が可能な窓口の設置
- 第三者機関による相談受付
- 迅速で公正な調査・対応プロセスの確立
5. 評価制度の見直し
年齢に依存しない客観的な評価制度を構築することで、エイハラの根本的な原因を取り除くことができます。
具体的な改革例
- 360度評価制度の導入
- 成果主義に基づく評価システム
- スキル・能力重視の人事配置
エイハラ予防のための研修プログラム

管理職向け研修の重要性
組織のジェネレーションギャップ問題に取り組むうえで大切なことは、組織内で権限を持っている上司側が、新しい世代の価値観を理解しようとすることです。
管理職には以下の内容を重点的に研修する必要があります。
- 無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)への気づき
- 世代間の価値観の違いを尊重する姿勢
- 年齢に関係ない公正な評価方法
- エイハラを目撃した際の適切な対応方法
全社員向け意識改革
世代間ギャップで感じる価値観について、「理解したい」「理解しようとしている」と答える人が8割強いることからも分かるように、多くの人は相互理解に前向きです。
この意欲を活かし、以下のような研修を実施することが効果的です。
- ケーススタディを用いた実践的な研修
- 世代別の価値観や特徴を学ぶワークショップ
- 多世代チームでのグループワーク
法的リスクと企業責任

現在の法的位置づけ
エイジハラスメントは法令等で定義されていないため、基本的に刑事処分を科すことはできません。ただし、事態がよほど深刻な状況に陥った場合は名誉毀損罪や脅迫罪に問うことができる場合もあるほか、民法に基づく処分や懲戒処分を下すことも可能です。
企業が負うリスク
エイハラを放置した場合、企業は以下のリスクに直面する可能性があります。
- 民事訴訟のリスク: 被害者からの損害賠償請求
- 使用者責任: 適切な措置を講じなかった場合の責任
- 企業イメージの悪化: 社会的信用の失墜
- 優秀な人材の流出: 定着率の低下と採用コストの増加
実践的な対策マニュアル

発生時の対応手順
エイハラが発生した場合の対応手順を明確にしておくことが重要です。
- 初期対応: 迅速な事実確認と当事者の分離
- 調査: 客観的で公正な調査の実施
- 対処: 規程に基づいた適切な処分
- フォローアップ: 被害者・加害者双方へのケア
- 再発防止: 原因分析と改善策の実施
就業規則への明記
ハラスメントへの対策方針を就業規則に定めることで、組織としての明確な姿勢を示すことができます。就業規則には以下の内容を盛り込むことが重要です。
- エイハラの定義と具体例
- 禁止行為の明確化
- 相談・報告制度の詳細
- 処分内容と基準
- 被害者保護の措置
成功事例:多世代が活躍する職場づくり

メンタリング制度の活用
年齢に関係なく、スキルや経験に基づいたメンタリング制度を導入することで、世代を超えた学び合いの環境を創出できます。例えば、デジタルスキルでは若手が先輩を指導し、業界知識では経験豊富な先輩が若手をサポートするといった相互メンタリングが効果的です。
多様性を活かしたチーム編成
各世代の強みを活かしたチーム編成を行うことで、エイハラを予防しながら生産性を向上させることができます。世代の異なる視点を組み合わせることで、より創造的で包括的な解決策を生み出すことが可能になります。
誰もが活躍できる職場環境の実現に向けて

高齢化社会において、多世代共存は避けられない現実となっています。超高齢化社会になるにつれ、今後さらに注目されるハラスメントと呼べるエイハラに対して、企業は積極的な対策を講じる必要があります。
エイハラの防止は、単にハラスメントをなくすだけでなく、多様な世代が持つそれぞれの強みを最大限に活かし、組織全体のパフォーマンス向上につながる重要な取り組みです。
世代間ギャップの元ともいえる「価値観の差」を、前向きに理解しようとしているビジネスパーソンが多くいるという現状を活かし、相互理解と尊重に基づいた職場環境を構築することが、これからの企業にとって不可欠な課題となるでしょう。
BasisPoint Academyでは、エイジハラスメント防止に特化した研修プログラムをご用意しています。多世代共存の職場環境における効果的なコミュニケーション方法や、管理職向けのマネジメント手法など、御社の状況に合わせたカスタマイズも可能です。 ぜひお気軽にご相談ください。





